ひと夏の思い出に恋をして(2人読みver)


≪詳細≫

とある企画に参加して書いたお話。

およそ15分くらいになります。

※画像:ミカスケ様、フリー素材の組み合わせ


≪関連作品≫

ひと夏の思い出に恋をして(女性ver)

ひと夏の思い出に恋をして(男性ver)


≪あらすじ≫

とある夏の日に出会った男女のお話。

きっかけは、勘違いかもしれない…少し切ない物語。


≪登場人物≫

女性:ひと夏の思い出を夢に見る人。

男性:ある夏の日、女性に出会い、一目惚れする人。



女性:私はある時から、毎晩、同じ夢を見る。

女性:それは、私の大好きなあの人とのひと夏の思い出。


女性:初めて出会ったのは、海だった。

女性:何となく朝焼けを見たくなって、近くの海に足を運んだ。

女性:あんな時間、誰もいないと思っていた。

女性:だけど、少し波打ち際で海に入っていた時だった。


男性:「死んではダメだ」


女性:最初は何を言われているのか分からなかった。


男性:「まだ、若いんだから、命をそんな風に投げうっちゃいけない」

女性:「え?」

男性:「とにかく、海から出よう」


女性:あなたに言われるがまま、海を出た。


男性:「何で死のうとしてるのか分からないけど、悩みくらいなら聞けるから」

女性:「いや…あの…」

男性:「ん?」

女性:「死のうとしてませんから、安心してください」

男性:「え?死のうとしてない?」

女性:「はい」


女性:私がそう返事をすると、あなたはさっきまでの必死さが消え、慌て始めた。


男性:「僕はてっきり…」

女性:「そんなに死にたそうな顔してました?」

男性:「え?!あぁ、いや…そんなことは」

女性:「じゃあ、なんで死のうとしてると思ったんですか?」

男性:「…なんとなく?」

女性:「ふふっ(笑)」

男性:「えっと…すみません!」

女性:「いいえ。でも、びっくりはしました」

男性:「…」

女性:「きっと、ボーっとしてる感じが悲観してるように見えてしまったんですよね」

男性:「…はい」

女性:「私も気を付けますね。じゃあ、これで」


女性:その時は、もう会うことはないと思っていた。

女性:でも、海に行くとたまに会うようになった。

女性:何度か会っているうちに、

女性:本当は死のうとしているんじゃないかと思ったあなたが

女性:探しに来てくれていたと知ったときは、なんだか嬉しかったし

女性:本当に優しい人だなぁと思った。


【夢の場面が変わる】


女性:出会ってから何度か話していると、花火大会の話になった。


男性:「そういえば、もうすぐ近くの花火大会の時期ですね」

女性:「そうですね」

男性:「見に行ってますか?」

女性:「えぇ。毎年家族と一緒に」

男性:「そうなんですね」

男性:「僕と一緒に行きませんか?」

女性:「え?いいんですか?」

男性:「えぇ。」

女性:「ぜひ、ご一緒させてください」

男性:「…はい!」


女性:家族としか行ったことがなかったから、誘われて嬉しかった。

女性:嬉しすぎて浴衣を新調までしてしまったのは、内緒。


女性:当日、あなたと待ち合わせをした場所から案内されたのは、穴場のような所だった。

女性:出会った時からずっと、気にかけてくれるこの人に何か出来ないか

女性:花火を見ながら、隣で浴衣姿のあなたに見惚れながら、そんなことを思った。


女性:夜空に次々に咲く色とりどりの花火。

女性:時折、照らし出される貴方の横顔を眺めていると、不意に言われた。


男性:「(照れくさそうに)言うのを忘れていましたが、浴衣姿、素敵ですね」

女性:「(微笑みながら)ありがとうございます」


女性:言うのを忘れていたと、前置きをするあなたは

女性:少し照れくさそうにしていて、なんだか、可愛いと思った。

女性:きっと、私はこの時、あなたに恋をした。


【夢の場面が変わる】


女性:今度は別れ際の切ない思い出。

女性:ある時、あなたに呼ばれて夜のアトリエに行った。


女性:「こんばんは」

男性:「やぁ、いらっしゃい。どうぞ」

女性:「お邪魔します」


男性:「大したもてなしは出来ないけど、お茶くらいは出せるからちょっと待っていて」

女性:「あ、ありがとうございます。お部屋の中、見ててもいいですか?」

男性:「もちろん」


女性:部屋の中には彼の作品がたくさんあった。

女性:そんな中、机の上に1冊の本が置かれていた。

女性:そこには栞が挟まっていて、読みかけなのが分かる。

女性:気になって、手に取ろうとしたところで、あなたが戻ってきた。


男性:「これは本じゃなくて、日記なんだ」

女性:「え?ごめんなさい!」


女性:この時は手に取らなくてよかったと思った。

女性:さすがに人のプライベートなことを見ることは出来ないから。


男性:「いや。今から話そうと思っていたから気にしないで」

女性:「え?」

男性:「今日、君をここに呼んだのは

男性: 僕のことについて話しておきたいことがあったからなんだ」

女性:「あなたのこと?」

男性:「うん」

女性:「それって…」

男性:「男が日記なんて、珍しいって思う?」

女性:「え?…そうですね」

男性:「だよね。僕もそう思う」

女性:「…」

男性:「僕はさ。結構忘れっぽいから。誰かとの大切な思い出も忘れたら嫌で」

女性:「まぁ、確かに。忘れるのは辛いですもんね」

男性:「うん。だから、君との思い出もここに書いてる」

女性:「え?」

男性:「だから、見られるのが恥ずかしくてね」

女性:「…そうなんですね」


女性:この時の私は、あなたの言葉を信じていた。

女性:でも、今はあの時、読んでおきたかったと思う。

女性:そうすれば、こんな別れにはならなかったかもしれない。



女性:話を聞いて数日経った頃、あなたは居なくなった。

女性:アトリエのあった場所に行くと、日記と手紙が置いてあった。


男性:『大切な君へ』

男性:『こんな風に居なくなってしまって、ごめん』

男性:『こんな自分を見せたくなくて…逃げ出す僕を許して、とは言わない』

男性:『でも、これだけは言わせて』

男性:『僕は、初めて会った時の朝焼けに照らされた

男性: 淡い青のワンピース姿の君に恋をした』

男性:『そして、それを忘れないようにと描いた絵を同封しておきます』

男性:『君に出会えて本当によかった。ありがとう』


女性:手紙を読んで、あなたの日記を読めば読むほど、一緒に居たかったと思ってしまう。

女性:もう、あなたに会うことは出来ないのだろうけれど…

女性:この本は、あなたの記憶の物語だから、私は絶対に忘れない。



(終わり)

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