未来を選んで、過去を忘れる


≪詳細≫

とある企画で書いたお話。

およそ5分くらいになります。

※画像:ミカスケ様


≪関連作品≫

『ひと夏の思い出に恋をしてシリーズ』


≪あらすじ≫

気付いたら、ここに居た。僕は一体…


≪登場人物≫

思い出が無くなっていく男性。



僕は…一体、どうしてここに居るのだろう。


いつだっただろう。

誰か大切な人が居たような気がする。

その人に辛い思いをさせたくなくて、ずるいことをした気がする。


思い出せない…

でも、これもきっと、僕の選んだことなんだ。

そう思っていると、誰かに声を掛けられた。


「ここに居たんですね」


女性が目の前に居る。

相手は僕を知っているみたいだけど、僕は思い出せない。

失礼だとは思ったけど、尋ねることにした。


「どこかでお会いしましたか?」


彼女は嫌な顔をしなかった。

それどころか、微笑みながらこう言った。


「ある夏の日に、少しだけ一緒に思い出を作りました」


そう言って、鞄から1冊の本を取り出した。

見覚えがあるような、ないような…

そんな不思議な感覚に襲われる。


しかし、彼女はその本の中身を僕に見せようとはしなかった。

まるで、見せてはいけないと思っているような。


僕がその本に手を伸ばすと、彼女は言った。


「あなたは過去を知りたいですか?」


質問の意味が分からなかった。

何も答えずにいると、今度はこう言われた。


「あなたは今、過去を残していますか?」


やっぱり、分からなかった。

彼女が一体、何を知っているのか。

僕に何を問いかけているのか。

言葉の意味が、理解できなかった。


すると、彼女は何かを察したかのように呟いた。


「あなたは、やっぱり…未来だけを選んだんですね」


その言葉を発した彼女は、なんだか切なく、寂しそうだった。

その瞬間、僕は彼女をまた悲しませてしまったと思った。

また…?

会った覚えがない彼女に対して…どうしてだろう。


考え込んでいたせいで、彼女が居なくなっていることに気付かなかった。

目の前に置かれた、1通の手紙。


これを見れば、何か知れるだろうか。

そう思いながら、手紙を開けると、ただ、一言。


『あなたの未来が明るい事を祈っています』


見覚えのある文字で書かれたこの一言。

そこに込められた想いは分からないけど

僕は、また1人になったという事だけは分かった。


ある時からずっと、何もないところを歩み続けている感覚になっている。

1人で佇み、1人で歩んでいる。

少し前までは、誰かと一緒に歩もうとしていた気がするのに。


でも、きっと、この気持ちもそのうち忘れてしまう。


だって、僕には何もない。

未来だけを選んで、過去を忘れていくのだから。



(終わり)

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