春夏秋冬(秋)
<秋>
これはとある、四季を知らない人が四季を巡る物語。
旅人:この世界に来て、かなりの時間が経った。
旅人:未だにどうしてここに来たのかは分からない。
旅人:しかし、そんなことが気にならないくらい、春、夏と過ごす中で、色々なことを知った。
旅人:人の温かさ、木々や花、動物たちの成長。
旅人:来てよかったと思えることが本当に多い。
旅人はそんなことを思いながら、旅を続けていた。
旅人:夏から秋に変わる頃なのだろうか。
旅人:少しだけ、暑さが和(やわ)らいで肌寒い感じがする。
旅人:それに、辺りの木々が、少しずつだが、綺麗に色づいてきている。
旅人:きっと、これも秋に変わる特徴だ。
そんなことを考えていた時
道の途中にある家の前で、何やら作業をしている人が居ることに、旅人は気づいた。
気になった旅人は、「何をしているのだ?」と声を掛けた。
すると、作業に夢中だったのか
旅人が声を掛けるまで気づいていなかったようで、かなり驚いていた。
旅人は少し申し訳ないと思いながら、もう一度「何をしているのだ?」と聞いた。
すると相手は、気にしない素振りで答えた。
「落ち葉を集めているんだ」と。
旅人:言われて足元を見ると、確かに色づいた葉がたくさん落ちている。
旅人:しかし、なぜ、落ち葉を集めているんだ?何かに使うのだろうか?
旅人が不思議な顔をしていると、相手は言った。
「落ち葉をこのままにしていると、歩きづらいし邪魔だろう?」
「だから、こうして集めて、庭で焚き火でもして温まろうと思ったんだ」と。
旅人:焚き火?見たことも、聞いたこともないものだ。
旅人:興味があり、目の前の人に見せて欲しいと言ってみた。
相手は 「なら、そのかごを持って付いて来い」
明るくそう言って、旅人を促した。
旅人は言われるがまま、かごいっぱいに集められた落ち葉を持って、後をついて行く。
前日の雨で、水を含んでいるせいか、少し重いと思った。
旅人:歩きながら、前を行くその人に聞いた。
旅人:「しかし、こんなに集めて、使い切れるのか?」と。
旅人:焚き火が何か分からないが、かごいっぱいだったこともあり、集められた落ち葉がすごく多いと感じたからだ。
旅人の疑問に相手は「おかしな事を聞くなぁ」と言いながら答えた。
「問題ない。焚き火は落ち葉を燃やすものだから」と。
それを聞いた旅人は、焚き火とはそういうものなのか。早く見てみたいと思った。
旅人:そんなことを考えていると、その人の家の庭に着いた。
旅人:そして「かごの中の落ち葉をここへ」と言われた。
旅人:言われるがままに、落ち葉をかごから別の入れ物に移しながら、何故移すのかと思った。
旅人:それに、この落ち葉を移している入れ物はなんだ?と疑問が次から次へと出てきて困った。
旅人:こんなに一気に質問しては困らせてしまうと思ったからだ。
旅人はこの世界に来て、色々な人と出会い、たくさんの心遣いを学んだ。
だからこそ、どこから聞いたらいいのか困っていた。
今までは、相手が気付いてくれていたから、旅人は質問しやすかったのだ。
どうするべきかと思っていると、相手が言った。
「何か聞きたいなら、遠慮せずに聞けばいい。」と。
旅人:この世界の人は、本当に優しい。
旅人:旅の途中で様々な人に出会って来たが、邪険にされたことは一度もない。
旅人:そんなことを思いながら、その人の言葉に甘え、まず移している入れ物は何かと尋ねた。
旅人:するとその人は、「この箱かい?これはドラム缶だよ。」
旅人:「これに落ち葉を入れて、少量の枝に火を付けて一緒に入れれば焚き火の完成さ」と言った。
「なるほど。この箱も焚き火には欠かせないのか」旅人は思った。
相手は、旅人が聞きたいことが分かっていたかのように続けた。
「まぁ、箱に入れなくても出来るんだが…」と言葉を濁した。
旅人が、どうしたのかと聞いたら、少し困ったような顔をしながら言った。
「地面が汚れるし、濡れた落ち葉でそこまで燃え上がることはないとはいえ、舞い上がったら大変だからな」
そう言いながら、相手は小枝を集め、火の準備をしていた。
「焚き火とは燃え上がるようなものなのか?」と旅人は尋ねた。
相手は一言。
「あぁ、火をつけすぎるとな。」と言った。
旅人:その人は、だから濡れた落ち葉は、多いほうが良いと教えてくれた。
旅人:しかし、焚き火は火を使うものなのだから、燃えたほうがよいのでは?
旅人:それを聞いて
旅人:「でも、それじゃあ風情(ふぜい)がないだろう?」とその人は言った。
旅人:風情…それは、この国ならではのものだと
旅人:いつだったか出会った人が教えてくれたのを思い出した。
旅人は、ここに来るまでに色々な人からその言葉を聞いた。
この世界の人々は、風情を大切にしているのだろう。
旅人自身もそれは気に入っている。
旅人:そんなことを考えている間に、その人は小枝をいくつか箱の中に入れて火をつけた。
旅人:落ち葉が濡れていることもあり、心配していた燃え上がりは起きなかった。
旅人:「これが焚き火か。確かに、ちょうどよい火加減で、近くに居ると暖まる」
旅人:秋は肌寒くて少し苦手だと思っていたが、こんな風(ふう)に暖まれるなら悪くないと思った。
旅人はしばらく、焚き火を見つめながら、そんなことを思っていた。
そして、秋より寒いという冬とは、どんな季節なのかと楽しみになった。
旅人:さぁ、旅を続けよう。次に来る最後の季節、冬を想像しながら。
(冬へ)
修正:2025/1/3
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