春夏秋冬(冬)


≪詳細≫

このシナリオは1人読みのシリーズものです。 

およそ10分ほどとなっております。

前編は『


≪あらすじ≫

季節ごとに四季を知らない旅人が巡りいろいろなことを知っていくお話。

『季節は巡る』

新たな気づきがあるかもしれません。


≪登場人物≫

旅人:四季を知らずに、四季の国へと迷い込む者。

配役のない文章も読んでください。

※配役のない文章は、ナレーション風に読むことを推奨します。


<冬>


これはとある、四季を知らない人が四季を巡る物語。


旅人:この『四季の国』という所に来て、季節を三つ巡ってきた。

旅人:どれもそれぞれに良い所があり、感動した。

旅人:そして、今、秋よりもずっと寒くなってきた。

旅人:きっとこれが冬なのだろう。

旅人:秋に綺麗に色づいていた葉が落ち、なんだか寂しいと思った。


旅人の思いに反応するように、空から何かがひらひらと落ちて来た。

旅人は気になり、触れてみた。


旅人:「冷たい…これが雪なのか?」

旅人:雪というものがどんなものなのか、気になって秋に出会った人に聞いていた。

旅人:その人

旅人:「雪は白くて冷たくて、空から降ってくるもの。積もることもあるのだ」と教えてくれた。

旅人:しかし、冷たいと聞いてはいたが、思っていたよりもずっと冷たい。

旅人:しかも、これが積もるというのだから寒いに決まっている。


旅人が空を眺めながら、そんなことを考えていると声を掛けられた。

旅人は声のする方へ顔を向けると、一人の人が立っていた。

どうしたのかと旅人が尋ねると

相手は「寒そうな恰好をしているから、これ」と言って厚手の布を渡された。


旅人:「これは、なんだ?」と尋ねるとその人は「マフラーだよ、首に巻いてみて」と。

旅人:マフラー?と疑問に思いながら、受け取り、言われた通りに巻いてみる。

旅人:「あぁ、確かに暖かい」


旅人の様子を見て、相手は笑顔で言った。 

「それ、あげますよ。この時期に首元は冷やさない方がいいです」と。

旅人は、それは申し訳ないと思って返そうとしたが

相手が貰って欲しいと言うので、言葉に甘えた。


旅人:しかし、この人はどうして自分にマフラーをくれたのだろう?

旅人:こちらが寒そうにしているからと言って、これをくれるのは優しすぎる気がする。


旅人は疑問に思ったことを相手に伝えた。

相手は少し気恥ずかしそうに「人にあげるつもりだったの」と言った。


旅人:それなら、特定の人が居たはずだ。

旅人:それなのに、こちらにくれるということは渡せなくなったのだろうか?

旅人:こういうことは聞いていいことなのか…。


旅人が困った様子なのに気づいた相手は、少し慌てた様子で言った。

「特定の人はいないの。正直に言うと、自分用に作ってたんだけど、作りすぎちゃって」

「だから、貰い手を探していたの」と。


旅人:なるほど、そういうことなのか。

旅人:それなら、遠慮なくもらっておこう。

旅人:正直、マフラーをもう一度外す勇気がなかった。これは本当に暖かい。


旅人は、今度こそ心から感謝を言った。

すると、相手は旅人に何をしているのかと聞いた。


旅人:そういえば、最初に声を掛けられた時も、何をしているのかと聞かれていたな。

旅人:声を掛けられたことに、驚いて答えていなかった。

旅人:「雪を見たことがなかったから、見ていただけだ」と答えた。

旅人:するとその人は、「そうなんですね」と言って、こちらの手を掴んで急に走り出した。


突然のことで旅人は付いていくことで精いっぱいだった。 

そして、相手は少し走ったところで止まり、一言。

「ここなら、もっと綺麗に見えるでしょう?」と。 

連れてこられたのは、さっき居たところより少し高台になっているところだった。


旅人:確かに。遮る建物もないし、木々に雪が少しずつ積もるのも見える。

旅人:何より人が居なくて気を遣う必要がない。

旅人:どうしても、気になるものを見つけるとそのまま立ち止まってしまう。

旅人:いつだったか出会った人に

旅人:「悪い癖のようだから気をつけな。」と言われたのを思い出して苦笑した。


すると相手は 「ここ、お気に入りの場所なんだ。」と静かに言った。 

「どうしてだ?」と旅人が聞くと、相手は 

「誰にも邪魔されることなく、のんびり出来るから。」と。


旅人:確かに、ここなら人を気にせずにのんびり考え事をすることが出来る。

旅人:しかし、それなら自分を連れてきてよかったのか?と思った。

旅人:『邪魔されることなく』ということは、一人になりたいということだ。


旅人は悩んだ。 

今までも、出会った人に色々な場所に連れて行ってもらったが

旅人を気遣い、適度な場所を教えてくれていたのだ。 

もちろん、今までの人も、一人になりたい時のお気に入りだった可能性もあるが

旅人は、今回は少し違うと思った。


旅人:このまま悩んでも分からない。なら、聞いてみるしかない。

旅人:「どうして、自分をここへ?」

旅人:すると、その人は 「なんででしょうね。あなたを見ていたら、ここが思いついて」

旅人:「こういう所好きそうだなぁって思ったら、走ってました。」と言った。

旅人:そうなのか。どうやら、この人は思い立ったら行動する性格のようだ。

旅人:きっと、マフラーもその行動力で作りすぎたのだろう。


旅人はそんなことを思い、笑顔になった。 

相手が不思議そうに旅人を見た。 

そして「何かおかしい事を言った?」と旅人に聞いた。 

旅人は「そんなことはない。ただ、あなたの優しさが嬉しくて笑顔になっただけだ」と答えた。


旅人:すると、その人は少し照れながら「なら良かった」と言った。

旅人:その顔が少し赤くなっていることに気づき、こちらも少し気恥しくなった。

旅人:でも、悪くない…いや、初めての感情だ。


旅人はこの感情が何なのか知りたくなったが

今はこのまま二人で静かにこの景色を見ることにした。

旅人の雰囲気を察したのか、相手も話すのを止(や)めて一緒に静かに景色を眺めた。

しばらくして、旅人が先に話し始めた。

「本当にこの世界の景色は、どんな時も素敵だ」と。

旅人の言葉に相手は「この世界?」と聞き返した。


旅人:「あぁ。自分は別の世界から来たから。だから、この世界を知りたくて旅をしていたんだ」

旅人:「そして、ようやく冬に辿り着いた」


相手はそれを聞いて「そうなんだ。この世界は気に入った?」と聞いた。

旅人はその言葉に、「もちろん」と笑顔で言った。 

そして、「もっと知りたいと思った」と。

相手は「なら、また旅をすればいいわ。四季は巡るものだから」と笑顔で言った。


 旅人:なるほど…旅を始めた時に言われたことはこういう事だったのか。

旅人:『人の輪が広がる』

旅人:この世界に来て、春に最初に出会った人が言っていた言葉の本当の意味が

旅人:今、分かった気がした。

旅人:四季は巡る。そして、続いていくのか。

旅人:本当になんて素敵な世界に来たのだろう。

旅人:では、旅を続けよう。

旅人:この素敵な世界をもっと知るために。

旅人:人の輪を四季を巡りながら広げるために。

旅人:巡り巡った先にあるものを知るために。


(終わり)

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