春夏秋冬(夏)
<夏>
これはとある、四季を知らない人が四季を巡る旅の物語。
旅人:この『四季の国』というところに来て、どのくらいが経っただろう。
旅人:春の季節は本当に過ごしやすい季節だった。
旅人:そして、気づけば、桜の花が散り、葉が生い茂っていて、蒸し暑い感覚。
旅人:「あぁ、これが夏なのか。」
旅人は、最初に出会った人の言葉を思い出しながら、実感していた。
旅人:何よりもここは、自分がいた真っ暗な世界と違い、すべてが輝いて見える。
旅人:人も動物も、植物も風も水も、すべてが新鮮で美しい。
旅人:この先にある四季は、どんなものを見せてくれるのかとわくわくする。
旅人は、自分のいた世界と季節というものを比べながら、そんなことを思っていた。
旅人:「しかし、暑いと聞いていたが、想像以上だ」
旅人:自分のいた世界は、気候が安定していたからこの感覚は初めてだ。
旅人:この国の人々は、どうやって過ごしているのだろう。
そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。
旅人は、驚きながら振り返る。
すると一人の人が立っていて、心配そうに旅人を見ている。
旅人:声を掛けてくれた人に聞いてみた。
旅人:「ここに来るのが初めてで、どのように暑さをしのげばいいか分からないのだ」と。
旅人:それを聞いた相手は、少し驚きつつ
旅人:「日陰に入るのがいいですよ」と教えてくれた。
旅人:そして、水を飲んだり、浴びたりするのも良いと。
旅人:「水を浴びる?」
旅人の疑問に、優しく
「そうです。汗をかいているでしょう?それを流すのは気持ち良いものです。」と相手は答えた。
そして、旅人を近くの川辺へ連れて行った。
そこには大量の水があり、空気が少しだけひんやりしていると旅人は思った。
旅人:川辺を眺めているのを見て、その人は優しく微笑みながら言った。
旅人:「ここは、少し木々が多くて他より涼しいし
旅人: あまり人も来ないから、のんびり足を水につけて休むといい」
旅人:「さすがに、水浴びは出来ないけれど」と言い、いつの間にか用意していた布を
旅人:「座る時に敷いて」と手渡してきた。
旅人は、相手の優しさに甘え
「じゃあ少しだけ」と、川辺に足を入れた。
そして、思っていたよりひんやりとしていて驚いた。
旅人:「これは確かに気持ちがいい」
旅人:受け取っていた布を敷き、そこに腰を下ろした。
旅人が布を敷いたのを見て、相手はもう一枚持っていた布を、川辺の水につけた。
そして、濡れた布を絞り、旅人に手渡しながら言った。
「足を水につけたまま、この布で顔や体の汗を拭くともう少し涼しくなると思う。
あとは首から下げるのもよい」と。
旅人:言われるがままに、涼しくなる方法を一つ一つ試していく。
旅人:確かに、どれも涼しく感じる。この世界の人は知恵が豊富だ。
旅人:いくつかの中から 「首から下げるのが一番涼しいと感じる」とその人に伝える。
旅人:すると、やはりという顔でこちらを見る。
旅人:どうしたのかと尋ねると、その人は
旅人:「首元を冷やすのが、熱を逃がすのにいい」と教えてくれた。
旅人:ただ、人によって違うから色々伝えてくれたようだ。
旅人は相手の心遣いに驚いた。
自分は何も知らないのだから、自身が良いと思っている一つだけを、教えてもよかったのに、と。
少し不思議に思っていることに気付いたのだろう。
その人は、旅人に言った。
「個性は大切にしないと」
旅人:「個性?それは、なんだ?」
旅人:真っ暗な世界にいた自分には、分からない。
旅人:この世界は知らないことがたくさんだ。
旅人:秋や冬を過ごせば、もっと知れるだろうか。
旅人は、そんなことを思いながら相手に聞いた。
「個性というのは、どういうものなのか」と。
すると、相手は和か(にこやか)に
「個性は、人それぞれの良い所」
「それは人だけじゃなくて、生き物や草木もだけれど」と答えた。
旅人:なるほど。春に出会った人も、この人も。
旅人:今まで見てきたものは、確かに一人一人、一つ一つ違う。
旅人:それが個性か。だから、次はどんな人に出会えるのかとわくわくしていたのか。
旅人:そんなことを思いながら、十分に休めたと伝え、相手に布を手渡し、旅立つ準備をした。
旅人:これから来る秋を想像しながら。
(秋へ)
修正:2025/1/3
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