紅葉：いつか、出会えると信じて

景太：僕たちは、歩みを進める

― 土御門家庭 ―

景太：「あ、居た」

紅葉：「あら、景太。どうしたの？」

景太：「どうしたの？じゃないよ。神社から帰ってきてから浮かない顔してるから、気になって」

紅葉：「…そう？」

景太：「うん。あ、でも、屋敷のみんなには分からないだろうから、安心していいよ」

紅葉：「本当に、景太には隠せないわね」

景太：「まぁ、この時代だけの付き合いじゃないからね」

紅葉：「そうね」

景太：「それで？どうしたの？」

紅葉：「今日、神社で会った人のことを考えていたの」

景太：「ん？芦屋寿里弥（あしやじゅりや）さん？」

紅葉：「えぇ」

景太：「あの人と何かあったの？」

紅葉：「…あの人、寿楽（じゅらく）だと思う」

景太：「え？本当に？」

紅葉：「確信は持ててないけど、多分」

景太：「そっか…でも、姉さんの直感は当たるし、星読みにも出てたんでしょ？」

紅葉：「えぇ。この時代の昔の知り合いに会えるのか、とばかり思っていたのだけど…」

景太：「なら、もう一度会って、確かめてみたら？」

紅葉：「そうよね…でも、今回は星読みはしないでおこうと思うの」

景太：「なんで？」

紅葉：「もし、本当に寿楽の生まれ変わりなら、きっとまた会えるから」

景太：「そっか。姉さんがそうしたいなら、そうしたらいいよ」

紅葉：「景太…」

景太：「僕は、姉さんのしたいことを尊重して、支えていくって決めているから」

紅葉：「本当に、昔から優しい子よね」

景太：「それ、生まれ変わる前のこと？」

紅葉：「いいえ、今も含めているわ。

紅葉：　だって、あなたは、大切な人のことを守るために一生懸命に生きていたし、生きているから」

景太：「…そう、かな？」

紅葉：「昔から知っている私が言うんだから、間違いないわよ？」

景太：「…それもそうだね」

紅葉：景太が生まれる前から、私には力があり、家を継ぐことは決まっていた。

紅葉：前世の記憶があったおかげで、術の扱いには困らなかった。

紅葉：そして、前世での約束を果たしたいと思ったからこそ、努力をした。

紅葉：あの悲劇を2度と繰り返さないために。

景太：物心ついた時には、前世の記憶の一部を夢で見るようになっていた。

景太：成長するにつれて、毎晩うなされる僕を見て、姉さんは、常に傍に居てくれた。

景太：後で聞いたら、姉さんも同じようなことがあったらしい。

景太：そして、姉さんの持つ前世の記憶と大切な人が居たことを教えてくれた。

景太：その人たちに出会うため、そして、未来を守るために、僕らは力を磨くようになった。

【場面転換】※少し間をあける

紅葉：それからしばらくして、私は寿里弥と再会した。

紅葉：話せば話すほど、寿楽だと確信に近づいていった。

景太：「姉さん？ぼーっとして、どうしたの？」

紅葉：「今日、また会えたの」

景太：「寿里弥さんに？」

紅葉：「えぇ。彼には、昔の記憶はないみたいだけど」

景太：「まぁ、前世の記憶を持って生まれてくるのなんて、稀なんじゃない？」

紅葉：「そうなのだけどね…やっぱり、ちょっと寂しいなって」

景太：「僕らだって、まだ断片的にしか思い出せていないんだから。もう少し、気長に待ってもいいんじゃない？」

紅葉：「そうね」

景太：「大丈夫。姉さんと寿里弥さんは、きっと、また結ばれるよ」

紅葉：「ありがとう」

景太：姉さんが焦っているのは、初めて見たかもしれない。

景太：いつも落ち着いていて、皆に頼られているから、早く心を預けられる人に出会ってほしいと思っている。

紅葉：景太の言う通り、焦らずゆっくり関係を築いていった。

紅葉：そして、数年後、互いに恋に落ちた。

紅葉：寿里弥と付き合うようになって、思わぬところに景太の大切な人が居ることに気付いた。

【場面転換】※少し間をあける

景太：「姉さん、呼んだ？」

紅葉：「景太。よく聞いてね」

景太：「何？改まって…」

紅葉：「紫桜（しお）さん、見つかったかもしれない」

景太：「え？星読みにでも出てたの？」

紅葉：「違うわ。今日、寿里弥から彼の幼馴染の女の子の話を聞いたの」

景太：「幼馴染の女の子？」

紅葉：「そう。その子、あなたと同い年くらいで『視える』そうよ」

景太：「でも、霊感ある子なら、他にも（いるよ）」

紅葉：「（さえぎって）それも『視えるだけ』なんですって」

景太：「え？」

紅葉：「昔、護身のために術を教えようとしたそうなのだけど、全然出来なかったって言ってた。

紅葉：　それにね、その子の名前『藤宮美桜（ふじみやみお）』って言うんですって」

景太：「藤宮？あの、藤原の血筋の一族？」

紅葉：「そうよ」

景太：「・・・」

紅葉：「おせっかいだとは思っているのだけど…」

景太：「ん？」

紅葉：「寿里弥に、その子に会わせてほしいってお願いしているの」

景太：「そうなの？」

紅葉：「景太が、今は会いたくないって思うなら、それでもいいと思う。

紅葉：　でも、私は会ってみたいと思ったの。紫桜さんと再会出来る可能性があるなら」

景太：「…そうだね。僕も会ってみたい」

紅葉：「そう。よかった」

景太：「姉さん、ありがとう」

紅葉：「え？」

景太：「姉さんの引き寄せた運命が、僕たちを引き合わせてくれたんだと思うんだ」

紅葉：「きっと、私たちは、それぞれ願っていたのよ」

景太：「願う？」

紅葉：「そう。生まれ変わっても、また一緒に居られますようにって」

景太：「そうだね」

【場面転換】※少し間をあける

景太：そして、寿里弥さんと美桜さんと会う日が訪れた。

紅葉：景太と美桜さんが少しでも２人になれる時間を作りたいと思った。

紅葉：「景太。今日、喫茶店でお茶をした後に、寿里弥のお手製のお弁当でピクニックをすることになったから」

景太：「え？！何で、当日に言うの？何も準備出来ないよ」

紅葉：「だって、こんなに天気がいいんですもの。それに、景太にも食べてほしいしね」

景太：「…姉さん、何か企んでる？」

紅葉：「まさか。私は、本当にみんなで楽しく過ごしたいだけよ」

景太：こういう時の姉さんは、いつも以上に楽しそうな顔をしているから、すぐ分かる。

景太：この時はまだ、あんな恐ろしいことが起こるなんて思ってもいなかったけれど。

景太：不謹慎かもしれないけど、今では、それもよかったと、思っている。

紅葉：景太は昔から、周りをよく見ている。

紅葉：そして、一族の者として当主である私のことを支えることを目標にもしている。

紅葉：だけど、私は景太自身の幸せをちゃんと掴んでほしいと思った。

【場面転換】

－公園－

景太：彼女が目の前に飛び込んできた時に、自分の記憶と重なった。

景太：だからこそ、僕は、彼女を受け止めて、結界を張ったんだ。

景太：彼女は、紫桜の生まれ変わりで、僕が追い求めていた人かもしれないから。

景太：今度こそ、守るために。

紅葉：私が、攻撃の軸になることが多いから、必然的に、守りは景太になったと

紅葉：景太が小さい頃は思っていたけど、本当は違っていた。

紅葉：生まれ持った記憶から、景太は守ることにこだわっていたのだ。

景太：「この妖、凄い力だ…このままじゃ」

景太：思わず、弱音を吐いてしまった。

景太：彼女を不安がらせてしまったことに、申し訳ない気持ちになる。

景太：同時に結界が破られそうになり、咄嗟に抱きしめていた腕に力が入った。

紅葉：どうにか２人きりにしてあげたくて、わざと寿里弥を呼んだ。

紅葉：『ちゃんとやりなさい』なんて、まるで母親のような目線になりながら

紅葉：応援していると、普段は感じられないような強い妖の気配がした。

紅葉：「何で、こんな時に！」

紅葉：そんなことを思いながら、幼馴染を守らないと！と思っている寿里弥の後を追った。

紅葉：景太の結界が解けそうになる前に、割り込んだ寿里弥が、自身を傷つけながら守ってくれたけど

紅葉：タイミングが悪いという苛立ちと、寿里弥自身が自分を後回しにしていることへと怒りで

紅葉：気付けば、一撃で妖を滅していた。

【場面転換】※少し間をあける

　－　帰り道　−

景太：「姉さん、ごめん」

紅葉：「何？急に」

景太：「僕にもっと力があれば、寿里弥さんは怪我をしないで済んだと思うから」

紅葉：「（溜息）…あのね、景太」

景太：「ん？」

紅葉：「景太には、ちゃんと力があるわ。ただ、自信を持たないから、結界に揺らぎが生じただけよ」

景太：「そう、なのかな？」

紅葉：「仕方ないわ。実感出来たのでしょう？彼女が紫桜さんだって」

景太：「うん…あの時、彼女は全く同じ行動をしていたから」

紅葉：「見つかったのなら、これからのことを考えていけばいいのよ」

景太：「これからのこと？」

紅葉：「えぇ。きっと、彼女も寿里弥と同じで記憶はない。でも、本能であなたを守ろうとしたのでしょうから」

景太：「そうだね…僕は、二度とあの悲劇を繰り返さないと決めたからこそ、守る力にこだわったんだから」

紅葉：「えぇ。あんな辛い思いを知るのは、私たちだけでいいの」

景太：「そうだね」

紅葉：やっと、巡り合えたのだから

景太：これからは、ずっと一緒に居るために歩んでいく

（終わり）

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