結び雨、空に翔る（翔side）

≪詳細≫

梅雨のイメージで書きました。

およそ15分くらいになります。

≪関連作品≫

『結び雨、空に翔る（結雨side）』

『結び雨、空に翔る（完結）』

≪あらすじ≫

雨の日に出逢い、惹かれた二人のお話

※男性目線

≪登場人物≫

結雨（ゆう）：雨の日に出逢った翔に惹かれる

翔（かける）：雨の日に出逢った結雨に惹かれる

結雨：ポカポカとした陽気に包まれて

結雨：心地よさを感じながら過ごした春。

結雨：気付けば雨が降り続く季節になった。

翔：今日はずっと晴れていたから

翔：油断した…と思った。

翔：「まさか、こんなに降るとは…」

結雨：「本当ですね」

翔：独り言を呟いたつもりが

翔：いつから居たのか

翔：隣に女性が一人。

翔：ハンカチで水滴を拭っていた。

結雨：「あ、ごめんなさい。同じことを思っていたので」

翔：「いえ。予報、晴れでしたしね」

結雨：「えぇ。昼間は晴れてましたし」

翔：「そうですね」

結雨：「あ、よかったらどうぞ」

翔：彼女は…

翔：濡れたままになっている僕を見て

翔：使っていたハンカチを絞り、差し出してくれた。

翔：「あ、お構いなく」

結雨：「でも、そのままだと、風邪を引いてしまいますよ？」

翔：「大丈夫ですよ。こう見えて丈夫…（くしゃみ）」

結雨：「（笑）」

結雨：「だから言ってるじゃないですか」

結雨：「濡れると、思ってる以上に冷えるんですから」

翔：「ですね（苦笑）」

結雨：「だから、はい。どうぞ？」

翔：「お借りします」

結雨：「遠慮せずにどうぞ」

結雨：「それにしても…止みそうにないですね」

翔：「本当に…しばらくここで足止めかな」

翔：降り続く雨を見ながら、呟いた。

翔：すると、彼女から折り畳み傘があるから、近くまで一緒に行かないかと言われた。

翔：ハンカチを借りて、傘にまで入れてもらうなんて…申し訳なくて、断ろうとした。

翔：でも、彼女は優しく…

結雨：「気にしないでください」

結雨：「それに、偶然とはいえ

結雨：　そんなに濡れた人を、そのままになんて出来ませんし」

翔：「まぁ、そうかもしれませんけど」

結雨：「あ、女性の傘に入るの、抵抗があるとか？」

翔：「いえ、違います！」

結雨：「（笑）そんなに否定しなくても」

翔：「…（照れ）」

翔：照れ隠しのように

翔：慌てて否定したら、彼女に笑われてしまった。

翔：何とか誤魔化したくて。

翔：「あ、もしお時間あるなら…」

翔：「お礼がしたいので、カフェに付き合ってもらえませんか？」

結雨：「そんな、お礼なんていいですよ」

結雨：「困った時は、お互い様じゃないですか」

翔：「僕の気が済まないので」

結雨：「分かりました…」

結雨：「結構、頑固なんですね」

翔：「貸し借りは、しっかりしたい性格ではあります」

結雨：「なるほど」

翔：「それで…お付き合いいただけますか？」

結雨：「いいですよ。仕事も終わってますし」

翔：「では…少し歩くんですが、僕のお気に入りのお店でいいですか？」

結雨：「えぇ」

（少し間をあける）

（翔のお気に入りのお店の中）

結雨：「ここって、バーなんですか？」

翔：「夜は。今はカフェですよ」

結雨：「だから、内装が普通のカフェと雰囲気違うんですね」

翔：「詳しいですね」

結雨：「単純にインテリアとか見るのが、好きなだけです」

翔：「なるほど。あ、何にしますか？」

結雨：「お勧めは何ですか？」

翔：「ブレンドですね。

翔：　ここのオリジナルなんですけど、美味しいですよ」

結雨：「じゃあ、それで」

翔：「すみません。ブレンド二つで」

（少し間をあける）

翔：注文したところで

翔：自己紹介してなかったことに

翔：気づいて慌てて名刺を渡した。

翔：「榎本（えのもと）です」

結雨：「あ、ありがとうございます」

結雨：彼から名刺を渡されて

結雨：名前を確認したけど、

結雨：読めなくて、悩んでいたら

結雨：彼がそれに気づいて教えてくれた。

翔：「『かける』って読みます」

結雨：思っていた名前の１つだったけど

結雨：言おうとしていた名前では

結雨：なかったから、申し訳ない気持ちに

結雨：なっていた。

結雨：そんなことを思いながら

結雨：自分の名刺を渡し、自己紹介した。

結雨：「あ、橘（たちばな）です」

翔：「あ、ありがとうございます」

翔：彼女から渡された名刺を受け取り

翔：名前が読めず、悩んでいたら気づいて教えてくれた。

結雨：「『ゆう』って読みます」

翔：自分の名前も読めない人が多いからこそ

翔：彼女の名前をちゃんと読めなかったことが申し訳ないと思った。

翔：それと同時に

翔：『綺麗な名前だな』と思った。

翔：だから、彼女に由来はあるのかと尋ねた。

翔：しかし、彼女は…

結雨：「重い感じなので…」

翔：そう言って教えてくれなかった。

翔：この後の会話を、どうしたものかと思っていると彼女の方から話しかけてきた。

結雨：「榎本さんは、名前の由来あるんですか？」

翔：「あぁ、僕はありきたりですよ」

翔：「『空を翔るような子』っていう」

結雨：「空を翔る…『自由に』ってイメージですね」

翔：「えぇ。名前の意味もそのまま

翔：『自由に空を羽ばたくような』らしいですから」

結雨：「いいですね。

結雨：　のびのび育ってほしいっていう、ご両親の想いが伝わって」

翔：そんなことを言われたことがなかったから、ちょっと照れくさくなった。

翔：それから、お互いの仕事だったり、趣味だったり。

翔：他愛ない話をたくさんした。

翔：彼女と話すのは凄く楽しかった。

翔：借りたハンカチを洗って返すという口実で、次に会う約束をした。

（半年後）

翔：彼女と知り合って、半年が経った。

翔：話す度、彼女のことが知れて

翔：僕は気づけば、好きになっていた。

翔：今日は出会って半年経った日。

翔：初めて一緒に来たこの店で想いを伝えようと、彼女との待ち合わせ場所にした。

結雨：「ごめん！待たせた？」

翔：「いや、今来たところ」

結雨：「よかった」

結雨：「仕事が思ったより掛かっちゃって」

翔：「相変わらず、大変そうだね」

結雨：「まぁね（苦笑）」

翔：「注文は？」

結雨：「今日は紅茶にしようかな」

翔：「ストレートでいいの？」

結雨：「うん」

翔：結雨の飲み物を注文し

翔：しばらく、他愛ない話をした。

翔：飲み物が届いて、しばらくはいつものように、話してまったりと過ごした。

翔：そして…

翔：「…あのさ」

結雨：「ん？どうしたの？」

翔：「急にこんなことを言ったら、困らせるって分かってるけど…」

結雨：「ん？」

翔：「その…えーっと…」

結雨：「あの…さ」

翔：「えっ？」

結雨：「先に話してもいい？」

翔：「あ、うん」

結雨：「私ね。翔のことが好き」

翔：「え？」

結雨：「今日、絶対に翔に伝えようって思ってたの」

翔：「え…」

結雨：「急すぎるのは、分かってる」

結雨：「でも、最近ずっと翔のことを考えてることが多くて。

結雨：『あぁ、翔のこと好きなんだ』って思ったら伝えなきゃって…」

翔：「結雨…そっか」

結雨：「翔？」

翔：「僕も結雨と同じことを、思ってたんだ」

結雨：「え？」

翔：「でも、僕は勇気が出せなくて言えなかった」

翔：「はぁ〜。まさか、先を越されると思わなかったな」

結雨：「そっか…じゃあ」

翔：「うん」

翔：「僕も結雨が好き」

翔：「僕と付き合ってください」

結雨：「こちらこそよろしくお願いします」

結雨：雨の季節に出会ったこの縁を

結雨：大切にしたい。

結雨：『結び雨』のように。

翔：雨の季節に出会った

翔：優しい彼女とこれから一緒に

翔：自由に楽しく

翔：やっていけたらいいな。

翔：『空に翔る』ように。

（終わり）