紫桜：私と紅羽様は遠縁の親族。

紫桜：紅羽様は同じ血筋のはずなのに、どこか違う雰囲気で

紫桜：親族の集まりでも、いつも堂々となさっている。

紅羽：紫桜様は、可愛い妹のような感じだった。

紅羽：いつも後ろを付いてくるような感じで

紅羽：同じ親族の中でも『視える』のは

紅羽：私と紫桜様だけ、だったからかもしれない。

紫桜：「私、昔から、紅羽様が憧れだったんですよね」

紅羽：「紫桜様は、昔から私の真似をするのが好きでしたね」

紫桜：「紅羽様は、堂々となさっているから、かっこよく見えたので」

紅羽：「あら、過去形ですか？（少しからかう感じで）」

紫桜：「あ、いえ。そういうわけでは…」

紅羽：「ふふっ。冗談ですわ」

紫桜：「紅羽様…（少し拗ねた感じ）」

紅羽：「ふふっ。ごめんなさい。少し大人げなかったですね」

紫桜：「…今は、真似をするのではなく、自分なりに頑張ってみようと思って」

紅羽：「あら。それは素敵なことですね」

紫桜：「ありがとうございます」

紅羽：「そういえば、あれからどうですか？」

紫桜：「どう、とは？」

紅羽：「妖です」

紫桜：「あぁ…寿楽と千景のおかげで、怯えることはなくなりました」

紅羽：「そうですか。それはよかったです」

紫桜：「お屋敷にも結界を張ってくれると言っていたので、その効果かと」

紅羽：「とても強力な結界を張ったようですからね」

紫桜：「紅羽様には、分かるのですね」

紅羽：「え？」

紫桜：「私には結界の強度など、分かりません。ただ、視えるだけで」

紅羽：「紫桜様…」

紫桜：「やっぱり、すごいですね。紅羽様は」

紅羽：「そんなことはありませんよ」

紫桜：「最近では、寿楽に護身用に術を教わっているのでしょう？」

紅羽：「えぇ…私が嫌だったんです」

紫桜：「え？」

紅羽：「目の前で何もできないのが…。

紅羽：　出来ないかもしれないけど、やってみたいと思って寿楽に無理を言ったのです」

紫桜：「それで出来るのだから、やはり、凄いですよ」

紅羽：「そうなのでしょうか？」

紫桜：「私にはできません」

紅羽：「やろうとなさったのですか？」

紫桜：「いえ…」

紅羽：「紫桜様も、やってみたらよいのです」

紫桜：「…いいえ。私には、その力はないと自覚出来ていますから」

紅羽：「どうしてですか？」

紫桜：「昔から、こういう感覚的なところは外れたことがないのです」

紅羽：「昔から？」

紫桜：「はい。幼い頃から、感覚で感じ取ったことに間違いなかったので」

紅羽：「なるほど」

紫桜：「それに…」

紅羽：「それに？」

紫桜：「私は、視えるということだけでも役に立てることもあるのではないか、と最近は思うのです」

紅羽：「・・・」

紫桜：「寿楽や千景と出会って、紅羽様のお傍で

紫桜：　感覚的なものを研ぎ澄まそうと思った、というか…」

紅羽：「そうですね。それは、紫桜様にしか、出来ないことだと思います」

紫桜：「紅羽様…」

紅羽：「きっと、紫桜様には、感覚が鋭いということが、生まれ持った才なのですよ」

紫桜：「はい。私もそう思います」

紅羽：「（小声）だからこそ、守りたくなるのかもしれませんね」

紫桜：「え？」

紅羽：「ふふっ。いいえ、何でもありません」

紫桜：「そうですか？」

紅羽：「えぇ」

紅羽：きっと、紫桜様はまだ気づいていない。

紅羽：自身が持っている魅力と、それに惹かれている者が、傍にいることを。

紅羽：感覚的なところだから、気付くまで待つのが良い。

紅羽：これから、千景は大変だなぁと思いながら、紫桜様を見つめた。

紫桜：紅羽様が何か楽しそうにしているのが、気になった。

紫桜：だけど、きっと教えてもらえない。

紫桜：これは、自分で気が付かないといけないことなのだろうから。

紫桜：それからしばらくして、紅羽様が寿楽と共に、遠い地へ行くことを千景が教えてくれた。

【場面転換】

－紅羽の屋敷－

紅羽：「あら、紫桜様。珍しいですね」

紫桜：「お住まいを移されると聞いたので」

紅羽：「…お聞きになったのですね」

紫桜：「はい。千景から」

紅羽：「そうですか…紫桜様」

紫桜：「はい」

紅羽：「私は後悔などしておりません」

紫桜：「え？」

紅羽：「例え、お父様のご意思に背くことになっていても

紅羽：　私は寿楽と居ることを選んだことに。

紅羽：　私にとって、寿楽は手放したくない相手なのです」

紫桜：「そうですか…それを聞いて安心しました」

紅羽：「え？」

紫桜：「紅羽様が後悔などしていたら、寿楽が可哀そうですもの」

紅羽：「紫桜様…」

紫桜：「紅羽様もご存じの通り、寿楽はこの国には必要な者です。

紫桜：　将来は陰陽頭（おんみょうのかみ）になれていたかもしれない者。

紫桜：　そんな腕の立つ者が、紅羽様と一緒に居ることを選んだのですから。

紫桜：　絶対に、手放してはいけません」

紅羽：「ふふっ。そうですね」

紫桜：「大丈夫です。お二人なら、ずっと一緒に居られます」

紅羽：「…ありがとうございます。私はそうありたいと思います」

紫桜：「私の直感がそう言っていますから。大丈夫ですよ」

紅羽：「紫桜様の感覚は、外れませんものね」

紫桜：「はい！」

紅羽：これが、紫桜様との最後の会話になるなんて、この時は思っていなかった。

紅羽：あの時、私が感じていたことをお伝えしていたら、違っていたのだろうか。

紅羽：寿楽から、星読みや簡単な人相占いを習ったばかりで

紅羽：自信がなかったというものあるけれど

紅羽：あの時の紫桜様には『死相』が出ていたから。

紫桜：紅羽様と寿楽は、幸せに、ずっと一緒に居られる。

紫桜：そう直感で思ったのは、本当。

紫桜：だけど、同時に、自分と千景は、一緒に居られる時間が少ないと感じていた。

紫桜：そして、やっぱり、私の感覚に狂いはないと思った。

紫桜：妖との戦いで、千景が私を守ってくれていたけれど

紫桜：最期は、一緒に命を落とすことになったのだから。

（終わり）

男０：女２