寂しさはスパイス


【詳細】

 2024年でライターとして3年が経ち、久しぶりにバレンタインに合わせた個人企画を。

 ある10個のタイトルの詩の中から選んで頂いたもので、お話を作成しています。

 今回の詩のタイトル【寂しさ】

 目安時間:10分程度

 

 男性サシ劇※当て書きのため、性別変更不可

 語尾改変〇 

 人称変更可


【あらすじ】

 ある日、突然家族が消えた男が指導係として教えていた新人は、実は…


【登場人物】

 横尾雅人(よこお まさと):黒斗の配属された部署の指導係。実は黒斗の兄。

 古賀黒斗(こが くろと):雅人のいる部署の新人。実は雅人の弟。


雅人:私には弟がいた。

   私と弟は歳が離れていて、弟が生まれた時には、社会人となり家を出ていた。

   だが、家族とは頻繁に連絡を取っていた。

   なのに、ある日突然、連絡が取れなくなった。

   心配して、実家に戻ると、そこには何もなかった。

   あれから、20年。弟も社会人として過ごしている頃だ。



黒斗:「横尾さん、どうしたんですか?そんな考え込んで」

雅人:「いや。ちょっと昔のことを思い出しただけだ」

黒斗:「昔のこと?」

雅人:「あぁ。ちょうど君と同じ年の頃だなぁと思ってな」

黒斗:「前に話してくれた弟さんのことですか?」

雅人:「あぁ」

黒斗:「きっと、横尾さんのこと、思ってますよ。弟さんも」

雅人:「どうしてそう思うんだい?私は、弟とはほとんど遊んだこともないのに」

黒斗:「分かんないですけど…家族とかに聞いてるんじゃないかなって思うんで」

雅人:「そうなのかねぇ」



雅人:古賀黒斗。私のいる部署に、春に配属されてきた新人だ。

   指導担当として、一緒に居ることが増えて、自然と食事に行くことも多くなった。

   いつだったか、家族の話になり、弟のことを話した。



【場面転換】※少し間をあける

- 居酒屋 -



黒斗:「横尾さんって兄弟とかいるんですか?」

雅人:「…私はずっと1人だ」

黒斗:「ずっと、ですか?」

雅人:「あぁ…だいぶ昔に、なくなったから」

黒斗:「っ!すみません!」

雅人:「いや、気にしなくていいよ。死んだわけじゃない…はずだから」

黒斗:「そう、なんですか?」

雅人:「…実際は分からないけど、そう信じている」

黒斗:「何があったのか、聞いてもいいですか?」

雅人:「大したことじゃないよ。私には年の離れた弟が1人居たんだ。

    でも、社会人になって家を出た私は、全然会えないでいた。

    母とは連絡を取っていたが、ある日、連絡が取れなくなって、実家に帰ったら、そこには何も残っていなかった」

黒斗:「何も…ですか?」

雅人:「あぁ。何があったのは、母も言ってくれなかったから、本当に分からないんだ。

    ただ、生きていてくれたら…とは思っているけどな」

黒斗:「そうなんですね」

雅人:「もし、生きてたら、ちょうど君と同じくらいだから、思い出したのかもしれない」

黒斗:「弟さんのこと、すごく大切に思ってたんですね」

雅人:「まぁ、年の離れた兄弟が出来るなんて思ってなかったし」

黒斗:「確かに…僕も兄弟には憧れてました」

雅人:「そうなの?」

黒斗:「はい…僕は一人っ子なので」

雅人:「そうなんだ」

黒斗:「だから、横尾さんみたいな人がお兄さんだったら、きっとすごく懐きましたよ」

雅人:「単純すぎない?」

黒斗:「本心ですよ。指導係が横尾さんでよかったって本当に思ってますし」

雅人:「大したこと、出来てないと思うけどなぁ」

黒斗:「いえいえ。教え方は丁寧ですし、分かりやすいです!」

雅人:「まぁ、教えるのは初めてじゃないからね」

黒斗:「経験を元に…ってやつですか?」

雅人:「そういうこと」


黒斗:僕は、横尾さんが指導係になってくれて、本当に良かったと思っている。

黒斗:頼れる兄というのは、きっと、こういう存在なのだろうと、思えたから。



【場面転換】※少し間をあける

- 現在 -



雅人:「そういえば、どうして、ここに居るって分かったの?」

黒斗:「あぁ…それは、横尾さんの普段の行動を観察してるので」

雅人:「観察って…」

黒斗:「あ!変な意味じゃないですよ!横尾さん、前触れなく居なくなるから、聞きたいことがあった時に探せるように見てるんです!」

雅人:「ふっ(笑)それ、あまり訂正出来てないような気もするけど」

黒斗:「えぇ…そうですか?」

雅人:「まぁ、いいよ。それで、何を聞きたくて探してたんだい?」

黒斗:「もうすぐ会議なのに、部署に居ないんで、部長が怒ってました」

雅人:「…それは、もっと早く言いなさい」

黒斗:「すいません」

雅人:「絶対、悪いと思ってないね…その顔」

黒斗:「ほらほら、行きますよ~」

雅人:「まったく…」


雅人:古賀は、人の心をつかむのが上手い。

雅人:だから、つい、何でも話してしまうし、許してしまう。

雅人:私も、古賀が弟だったら…なんて考えてしまう。



【場面転換】※少し間をあける

- 居酒屋 -



黒斗:「今日の会議、ヤバかったですね」

雅人:「まぁ、相手が相手だから、部長も気合入っているんだよ」

黒斗:「それでも…半年以上居て、一番の重苦しい雰囲気だった気がします」

雅人:「今のうちに慣れておかないと、今後苦労するよ」

黒斗:「あんなの、起きないでほしいですけど」

雅人:「まぁね」

黒斗:「あ、そういえば、横尾さん」

雅人:「ん?」

黒斗:「今日、ご家族…弟さんのお話をしていたじゃないですか?」

雅人:「あぁ、思い出してたって話したね」

黒斗:「僕も最近になって、思い出したことがあるんですよ」

雅人:「思い出したこと?」

黒斗:「僕、自分の家族の話を、横尾さんにしてなかったなぁって」

雅人:「あぁ…そういえば、聞いたことなかったね」

黒斗:「僕の両親、再婚してて。物心ついた時には、今の父と一緒に暮らしてたので、知ったのは高校生の頃なんですけど」

雅人:「なんで、高校生の時に知ったのか、聞いてもいいかい?」

黒斗:「もちろん。高校生の時、父から話があるって呼ばれて、聞かされました」

雅人:「随分と唐突だね」

黒斗:「その時に、本当の父が亡くなったそうなんです」

雅人:「そうなんだ」

黒斗:「その時…母と本当の父親には、息子がいるって聞きました。年が離れているから、あまり兄弟としては過ごせないだろうけど、何かあっても、1人じゃないって思えるようにって、話してくれたそうです」

雅人:「それは…」

黒斗:「はい。最近まで忘れてて、先日、気になって役所に行ってきたんです。戸籍を調べるために」

雅人:「そう、なんだ」

黒斗:「これが、その書類です」


【黒斗、雅人に書類を差し出す】


雅人:「…私と同じ、名前」

黒斗:「同じ、というより、横尾さんですよ。この名前」

雅人:「え?」

黒斗:「母は、父とは再婚してないんです。本当の父と離婚したら、横尾さんに迷惑を掛けるかもしれないって。まぁ、黙って居なくなっている段階で、迷惑を掛けてはいるんですけど…」

雅人:「じゃあ、君があの時の赤ん坊…私の弟なのかい?」

黒斗:「そう、みたいです。横尾さんが、弟さんの名前を知らないのは、母から聞いてなかったからですよね?」

雅人:「その通りだよ。母が、帰ってきたら教えるって、ずっと言ってて」

黒斗:「言いそうだなぁ、母さんなら」

雅人:「本当に、私の…」

黒斗:「僕も最初は信じられなかったですけど、嬉しいですよ!本当に横尾さんがお兄さんで!」

雅人:「やっと…20年も待っていた甲斐があった…」

黒斗:「会社では今まで通りでいいんで、プライベートの時は、兄弟として、一緒に居てもいいですか?」

雅人:「もちろん。私は、君をずっと探していたし、待っていた」

黒斗:「寂しかった…ですか?」

雅人:「うん。でも、もう寂しくない。こんな近くに居てくれるんだから」

黒斗:「これからは、家族としてもたくさん話しましょう。兄さん」

雅人:「そうだね、黒斗」



雅人:人は大切な人と離れると、寂しさで悲しくなったり切なくなったりする。

   でも、寂しさを乗り越えれば、離れていた分、会えた時の嬉しさが増す。

   寂しさは、会えた時の嬉しさを増すためのスパイス。

   そう思えば、これも悪くない。



(終わり)


SpecialThanks:ましょこさ様、くろろこ様

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