想いは時を越えて~千景と紫桜の最期~


【詳細】

 シリーズの続編です。

 およそ20分ほどになります。


【関連作品】※掲載順、シナリオ早見表にリンク有

『平安~現代』※男2:女2

『寿楽×紅羽』※男1:女1

『寿楽×千景』 ※男2:女0

『千景×紫桜』 ※男1:女1

『紅羽×紫桜』 ※男0:女2

『寿里弥×紅葉』※男1:女1

『現代編』※男2:女2

『寿里弥×美桜』※男1:女1

『紅葉×景太』 ※男1:女1

『景太×美桜』 ※男1:女1


【あらすじ】

 陰陽師である千景は、藤原の遠縁の紫桜の護衛になった。

 その日常が終わる、最期の数日の出来事。



【登場人物】

<平安時代>

 寿楽(じゅらく):男性

  陰陽師の仕事をしている真面目な青年。

  紅羽と想い合っていることで、遠くの地へと移り住んでいる。


 紅羽(くれは):女性

  藤原の遠縁のお姫様。

  寿楽と想い合っていることで、遠くの地へと移り住んでいる。


 紫桜(しお):女性

  藤原の遠縁のお姫様。紅羽とも遠い親戚。

  千景のことを密かに想っている。


 千景(ちかげ):男性

  寿楽が遠くの地へと移り住んだことで、筆頭陰陽師となった。

  紫桜の護衛に付きながら、想いを寄せている。


 男鬼:男性

  紫桜の目を欲して屋敷に現れた鬼。

 

 女鬼:女性

  男鬼の影に隠れている鬼。


※鬼役は寿楽、紅羽役の方が兼ねるか、他の方に演じてもらい6人台本としてもよい。




千景:数日前に起きた妖騒ぎで、紫桜の屋敷の警備の強化が行われた。

千景:それでも、不安で仕方なかった。

千景:寿楽が居れば、紫桜にあんな思いをさせなくて済んだはずだ。


千景:「くそっ!!」

紫桜:「千景?」

千景:「っ!…紫桜」

紫桜:「どうしたの?」

千景:「いや…」


【紫桜、千景の頬に手で触れる】


千景:「紫桜!誰かに(見られたら)」

紫桜:「(さえぎって)すごく、辛そうな顔をしている」

千景:「・・・」

紫桜:「(微笑みながら)私はあなたに守ってもらった。誰が何と言おうと」

千景:「紫桜…」

紫桜:「だから、自分を責めないで」

千景:「でも…怖い思いをさせた」

紫桜:「確かに、目の前に大きな妖が現れて、迫ってきた時は怖かった。

紫桜: でも、千景が守ってくれるって信じていたもの」

千景:「・・・」

紫桜:「千景、あのね」

千景:「ん?」

紫桜:「私はあなたが傍に居てくれたら、それでいいわ」

千景:「え?」

紫桜:「他の誰でもない。あなたが傍に居てくれたら、それでいいの」

千景:「…うん。傍に居るよ。何があっても」

紫桜:「よかった。少し、元気になったみたいで」

千景:「(微笑みながら)うん、ありがとう」

紫桜:「どういたしまして」


【場面転換】


紅羽:「あら…」

寿楽:「どうした?紅羽」

紅羽:「星が…」

寿楽:「星?」

紅羽:「紫桜様の星と千景の星に陰り(かげり)が見えて」

寿楽:「…そうか」

紅羽:「寿楽?」

寿楽:「いや…お前の腕は確実に上がっているなと思っただけだ」

紅羽:「え?」

寿楽:「俺の見立てと同じ見立てが出来るわけだからな」

紅羽:「じゃあ…」

寿楽:「あぁ。あの2人に何か起こるのかもしれない」

紅羽:「そんな…」

寿楽:「でも、俺たちが都に戻るわけにはいかない」

紅羽:「そうだけど!」

寿楽:「大丈夫だ。千景なら、きっと」

紅羽:「…そうね」

寿楽:「俺たちは俺たちの出来ることを、ここでするんだ」

紅羽:「えぇ」


【場面転換】


紫桜:千景と別れて、自室へと戻る。

紫桜:千景に言ったことに嘘はない。

紫桜:でも、夜が来る度に、今日も妖が出るんじゃないかと、内心怯えていた。

紫桜:だけど、私が耐えていれば、千景に心配を掛けることはないはず。


紫桜:「(溜息)」

千景:「紫桜?どうした?」

紫桜:「っ!どうして、ここに?入口の方に居たんじゃ」

千景:「近くに居る方が守れるでしょ?」

紫桜:「それはそうだけど…いいの?」

千景:「俺はお前を守るのが仕事だよ?だから、いいんだよ」

紫桜:「…ありがとう」

千景:「(微笑みながら)どういたしまして」


千景:紫桜が不安がっているのは、雰囲気で何となく分かっていた。

千景:俺に心配を掛けないようにしているのも。

千景:でも、それじゃダメなんだ。

千景:もっと頼ってもらえるようにならないと。


【場面転換】


紫桜:千景が傍に居てくれて、安心した。

紫桜:だけど、穏やかな時間はそう長くはなかった。


紫桜:「千景、そこにいる?」

千景:「うん、居るよ」

紫桜:「何だか、外が騒がしいけど…」

千景:「正面入り口の方で、妖が出たみたい」

紫桜:「・・・」

千景:「気配の感じだと、そこまで大きいやつじゃないから大丈夫だと思う」

紫桜:「本当に?」

千景:「うん。だから、安心して」

紫桜:「お父様達は大丈夫かしら…」

千景:「お父上たちにも護衛が付いているから大丈夫だよ」

紫桜:「そう…」

男鬼:「本当にそうかな?」

紫桜:「っ!」

千景:「紫桜!」


【千景、御簾をくぐる】


紫桜:「千景…」

男鬼:「ダメだよ。ちゃんと気配追ってないと」

千景:「…紫桜を離せ」

男鬼:「俺はこいつの目が欲しいんだよ」

千景:「目?」

男鬼:「あぁ…おい、女。お前、視えるだろ?俺の姿」

紫桜:「えぇ…2人」

千景:「2人?」

男鬼:「思った通りだ」

紫桜:「・・・」

男鬼:「…気が変わった」


【男鬼、紫桜を千景の方に突き飛ばす】


千景:「紫桜!」

紫桜:「千景…」

男鬼:「少しの猶予をやる。せいぜい、大切に過ごすんだな」


千景:鬼は、そう言い残して消えた。

千景:鬼に突き飛ばされて受け止めた時から

千景:紫桜はずっと震えている。


紫桜:ずっと前から、気付いてはいた。

紫桜:私の目には、他の視える人たちとは違うものが視えていると。

紫桜:だけど、認めたくなかった。

紫桜:紅羽様が居なくなったことで、より強くそう思っていた。


千景:「紫桜、大丈夫?」

紫桜:「うん…」

千景:「紫桜…2人ってどういうこと?」

紫桜:「・・・」

千景:「紫桜?」

紫桜:「…あの鬼は、影が2つあったから」

千景:「影?」

紫桜:「うん…私ね。視えるだけだけど、視え方が人とは違うみたいの」

千景:「ずっと、それを抱えていたの?」

紫桜:「だって…どう説明していいか分からなくて」

千景:「確かに」

紫桜:「あと…」

千景:「ん?」

紫桜:「…知られて離れられるのが、嫌だったから」

千景:「俺は離れたりしないよ」

紫桜:「千景…」

千景:「視えない人ならともかく、俺は視える。

千景: 何より、紫桜を誰より守りたいって思ってるんだから」

紫桜:「ありがとう」


【場面転換】


女鬼:「ねぇ。どうして、殺さなかったの?」

男鬼:「気が変わっただけだ」

女鬼:「思い出したのね」

男鬼:「…そんなんじゃない」

女鬼:「そう?でも、次はないわよ?」

男鬼:「分かっている。次は頂くさ」


【場面転換】


千景:鬼が来てから数日が経ち

千景:少しずつ屋敷の中も落ち着きを取り戻していた。

千景:ただ、一人を除いては。


紫桜:いつ来るのか分からない鬼…

紫桜:視えていた影は女のように見えた。

紫桜:どうして、私の目が欲しいのか

紫桜:それを考えると、心が落ち着かない。


千景:「紫桜、今いい?」

紫桜:「えぇ」


【千景、御簾をくぐる】


千景:「落ち着かないよな…」

紫桜:「うん…あの鬼が言っていた『私の目が欲しい』って言葉が忘れられなくて」

千景:「紫桜の目には、あの鬼がどんな風に視えていたんだ?」

紫桜:「魂は1つ…なのかな?でも、影は形が違って見えた。

紫桜: 1人は視えていた男の姿。もう1人は女の姿。

紫桜: だけど、女の方が、少しぼやけている感じがした」

千景:「…すごいな」

紫桜:「え?」

千景:「紫桜は『視えるだけ』って言うけど、そこまで細かく視えているのはすごいよ」

紫桜:「そう、なのかな?」

千景:「うん」

男鬼:「それは同感だ」

千景:「っ!」

紫桜:「千景…」

千景:「大丈夫。俺の傍を離れないで」

紫桜:「うん」

男鬼:「すぐに終わるさ」

千景:「…そんなことさせない」

女鬼:「(いい男ね。もらおうかしら)」

男鬼:「お前なぁ。やる気を削ぐなよ」

女鬼:「(そんなことしてないじゃない。私は私の仕事をするだけ)」

男鬼:「そうだな…始めよう」


千景:鬼の気配が変わった…

千景:そう思った瞬間だった。


紫桜:「千景!」


千景:紫桜の声と同時に、俺は突き飛ばされた。

千景:そして、俺の視界に見えたのは

千景:紫桜が後ろから女鬼に刺されているところだった。


紫桜:「っ!」

女鬼:「あら、さすがね。私が視えているなんて」


紫桜:千景に忍び寄る影が視えた瞬間

紫桜:思わず突き飛ばしていた。

紫桜:気付けば、体に力が入らず、崩れ落ちていた。


千景:「紫桜!!」

紫桜:「ち…かげ…」

千景:「何で…」

紫桜:「分からない…でも、私…初めて、守れた…」

千景:「紫桜…ダメだ…死なせない」

紫桜:「千景…」

女鬼:「殺さないの?」

男鬼:「焦る必要なんてないだろう?」

女鬼:「そうね…やっぱり、思い出しているんじゃない」

男鬼:「うるせぇよ」

千景:「紫桜…お前を守るためにいるのに…俺は…」

紫桜:「千景…あり、がとう…」

千景:「え…?」

紫桜:「私は…あなたの、傍で…腕の中で…しあ…わ…せ」

千景:「紫桜?…紫桜!…っ!」

男鬼:「さぁ、次はお前の番だ。せいぜい、仲良くな」


千景:紫桜を助けられないと分かった瞬間

千景:俺はどうでもよくなっていたのかもしれない。

千景:意識が遠のく中で、寿楽にだけは、知らせないと…

千景:そんなことを思っていた。


千景:『寿楽。俺は、お前みたいにはなれなかった。

千景: でも、大切な人と最期まで居られたことだけは、褒めてよ。』


【場面転換】


寿楽:久しぶりに千景から知らせが来たと思ったら

寿楽:紫桜と共に亡くなったという訃報だった。

寿楽:千景の最期の想いと共に。


寿楽:「千景、頑張ったな」

紅羽:「寿楽?」

寿楽:「紅羽…千景と紫桜が死んだよ」

紅羽:「そう…」

寿楽:「俺たちは、あいつらの分も生きないとな」

紅羽:「そうね…」


【寿楽、紅羽を抱きしめる】


寿楽:「千景は、幸せだったんだろうか」

紅羽:「紫桜様と一緒だったんですもの。幸せよ」

寿楽:「そうだな」


紫桜:『千景、大好きよ』

千景:『俺も、紫桜が大切で大好きだよ』



(終わり)


SpecialThanks:くろろこ様

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