想いは時を越えて
ー 平安から現代編 ー
【詳細】
初の4人台本。
あるきっかけから、書かせていただきました。
およそ20分ほどになります。
【関連作品】※掲載順、シナリオ早見表にリンク有
『寿楽×紅羽』※男1:女1
『寿楽×千景』 ※男2:女0
『千景×紫桜』 ※男1:女1
『紅羽×紫桜』 ※男0:女2
『千景と紫桜の最期』※男2:女2、一部兼役あり
『現代編』※男2:女2
『寿里弥×紅葉』※男1:女1
『寿里弥×美桜』※男1:女1
『紅葉×景太』 ※男1:女1
『景太×美桜』 ※男1:女1
【あらすじ】
平安時代~現代へ続く『視える力』を持つ4人が、それぞれ惹かれあうお話。
【登場人物】
<平安時代>
寿楽(じゅらく):男性
陰陽師の仕事をしている真面目な青年。
紅羽のお屋敷の妖退治の一件以来、お屋敷への仕事が増える。
紅羽(くれは):女性
藤原の遠縁のお姫様。
妖が視えることに苦労していたが、寿楽と出会い変わった。
紫桜(しお):女性
藤原の遠縁のお姫様。紅羽とも遠い親戚。
妖退治を陰陽寮に依頼したことで、寿楽、千景と出会う。
千景(ちかげ):男性
陰陽師として寿楽と一緒に仕事をしている青年。
紫桜のお屋敷に仕事で行ったことで、紫桜と出会う。
<現代>
芦屋寿里弥(あしや じゅりや):男性
寿楽の生まれ変わり、本人はその自覚がない。
『視える』家系のため、幼い頃に一通りの術は教わっている。
土御門紅葉(つちみかど もみじ):女性
紅羽の生まれ変わり。代々陰陽師の家系の土御門家のお嬢様。
前世の記憶を持っているため、寿楽の生まれ変わりを探していた。
藤宮美桜(ふじみや みお):女性
紫桜の生まれ変わり。前世の記憶はない。
寿里弥の幼馴染で、景太と付き合っている。
土御門景太(つちみかど けいた):男性
千景の生まれ変わり。
前世の記憶を持っていて、美桜と付き合っている。
寿楽:きっと、生まれた時から運命は決まっていた。
紅羽:あなたのことを大切に想っていたからこそ。
紫桜:きっと、未来も決まっている。
千景:お前のことを大切に想っているから。
- 平安の世 -
寿楽:この時代の人間は見えざる者への恐怖が強い。
寿楽:だからこそ、俺たちのように視える者の力が必要で
寿楽:俺たちは今日もこうして仕事をしている。
千景:「ねぇ、寿楽(じゅらく)」
寿楽:「なんだよ、千景(ちかげ)」
千景:「なんで俺たちの仕事量だけ、こんなに多いんだと思う?」
寿楽:「それは俺たちの力が他の奴らより強いから、だろ?」
千景:「いやいや、もっと強い奴いるじゃん」
寿楽:「もし…紅羽(くれは)の事を言っているなら、対象外だぞ。あいつは女だ」
千景:「分かってるけどさ…あいつ、護身の為に術、習ってるじゃん」
寿楽:「あくまでも、護身の為、だからな。公(おおやけ)になってないんだ。
寿楽: どこかで聞かれて襲われたりしたらどうするんだ」
千景:「…そうだね。ごめん…」
寿楽:「まぁ、気持ちは分かるけどな。あいつの力は、この国の誰よりも強いだろうし」
千景:「続けるのかよ、この話」
寿楽:「名前を出さなければ、問題ないだろ?」
千景:「そういうもんかねぇ…あ、来たな」
寿楽:「そのようだな。さっさと片付けよう」
【場面転換】
紫桜:「もう、嫌…」
紅羽:「紫桜(しお)様、そのように言わずに」
紫桜:「紅羽様は、困ったことがないのですか?」
紅羽:「困ったこと…
紅羽 : そうですね。いたずら好きではありますから、困ったことはありますね」
紫桜:「あるじゃないですか…」
紅羽:「ですが、この子たちは可愛いものですよ?」
紫桜:「…確かに、見た目は可愛いですけど」
紅羽:「特に人に害悪を成すものたちではありませんから。
紅羽: 名前を付けてあげると、もう少し落ち着きますよ」
紫桜:「…部屋を散らかされることは、害悪ではないのですか?」
紅羽:「この子たちにとっては、いたずらですからね」
紫桜:「紅羽様は、心が広いというか…」
紅羽:「そうでしょうか?」
寿楽:「紅羽?」
紅羽:「あら、寿楽。どうしたの?」
寿楽:「今日は、そちらのお姫様のお父上様からの依頼でな」
紅羽:「そう。紫桜様、安心してください。寿楽は腕の良い者ですから」
紫桜:「紅羽様…お知り合い、なのですか?」
紅羽:「えぇ。以前、我が屋敷に出た妖(あやかし)を退治していただきました」
紫桜:「そうですか…本日は、よろしくお願いいたします」
寿楽:「…俺のような、身分の低い者に簡単に頭を下げてはいけませんよ。紫桜姫」
紫桜:「姫は、おやめください…ん?お隣にもうお一方いらっしゃいますね」
寿楽:「あぁ、失礼しました。俺と一緒に仕事をしている千景です」
千景:「千景です。よろしくお願いします」
紫桜:「こちらこそ…」
紅羽:「あら、千景」
千景:「久しぶりー。って居るの分かっていただろ?」
紅羽:「えぇ。でも、あなたは息を潜めるようにしていたから、話したくないのかと思って」
千景:「そんなことないよ。ただ、紫桜姫と会ったことがないから、静かにしていただけ」
紅羽:「そう。そういえば、これから陰陽師が来ると、先ほど仰っていましたね」
紫桜:「はい」
紅羽:「それで…紫桜様は一体、お父様に何をお頼みになったのですか?」
紫桜:「この子たちより大きな妖が毎日出るもので…」
紅羽:「あぁ、なるほど」
寿楽:「先ほど、数体、妖が現れましたので、退治しました」
紫桜:「やはり、現れたのですね…」
千景:「紫桜様の力は、紅羽といい勝負してますからね。
千景: どうしても引き寄せてしまうんですよ」
寿楽:「ところで…紅羽、この結界、お前がやったのか?」
紅羽:「えぇ。紫桜様が妖にお困りだというので、身を守るために」
千景:「えっ!?これじゃ俺たちの来た意味がな(いじゃないか)」
寿楽:「(さえぎって)さすが、というべきなんだろうけど
寿楽: 外で力を使うのはダメだと言ったはずだぞ?」
紅羽:「紫桜様と会っている時に、妖が来ないとも限らないから、自衛のためよ。
紅羽: それなら、問題ないでしょう?実際、こうして小鬼が入り込んでいるわけだし」
寿楽:「(溜息)来たのが俺たちでよかった。本当に」
紅羽:「あら。私は最初から、あなた達が来ると思っていたわよ?」
千景:「え?陰陽師なんてたくさんいるじゃないか」
紅羽:「だって、紫桜様は遠縁と言えど、藤原の血筋ですもの」
寿楽:「なるほど」
千景:これが、俺たち4人が初めて出会った日。
千景:この時代は、姫の顔を見ることは許されておらず
千景:俺と寿楽は、紫桜の顔を見ていなかった。
千景:紅羽は貴族の家柄ではないと言い張って
千景:俺たちと対面し、敬語で話せば怒られていた。
千景:そんな紅羽と仲の良い紫桜も
千景:俺たちと普通に接したいと言い始めた時は
千景:いつも冷静な寿楽ですら、慌てていたものだ。
千景:今では、全員が普通に話すようになっているけど。
紫桜:「千景?どうしたの?」
千景:「っ!」
紫桜:「あら、ごめんなさい。考え事の邪魔をしてしまったかしら」
千景:「いや…ちょっと、思い出していただけ」
紫桜:「思い出す?」
千景:「あぁ。4人で初めて会った時のこと」
紫桜:「私の屋敷に、2人が妖退治で来た時のこと?」
千景:「あぁ」
紫桜:「でも、どうして急に?」
千景:「さぁね。あいつらのことが、懐かしくなったのかもしれない」
紫桜:「…そうね」
千景:「それより、俺に何か用があったんじゃないの?」
紫桜:「ちょっと、不安だったから。千景の傍に居たくて」
- 千景、紫桜を抱きしめる -
千景:「大丈夫。お前のことは俺が守るよ」
紫桜:「うん、ちゃんと守ってね。私は『視える』だけだから」
千景:「あぁ、絶対に守る。(小声)俺の大切な人だからこそ、この命に代えても」
紫桜:「千景?」
千景:「何でもないよ」
紫桜:「そう?」
千景:「あぁ。紫桜は、何も心配しなくていいから」
紫桜:「うん」
紫桜:紅羽様と寿楽は、1年前に遠い地へと行ってしまった。
紫桜:お二人とも、剣技も術技も素晴らしかった。
紫桜:紅羽様は女性でありながら、術を使うことに長けていた。
紫桜:寿楽は、何をさせても優秀で、紅羽様の護衛をしていたほど。
紫桜:だけど…紅羽様の力は誰よりも強く、
紫桜:誰よりも妖に狙われるという理由で、遠い地に住まいを移された。
紫桜:そして、この春、紅羽様の次に力が強いと言われた私の護衛として
紫桜:千景が付けられた。
【場面転換】
寿楽:「・・・」
紅羽:「どうしたの?寿楽」
寿楽:「紅羽…いや、何でもない」
紅羽:「千景のこと?」
寿楽:「何で、あいつが出てくるんだよ」
紅羽:「だって、いつも一緒だったじゃない」
寿楽:「もう1年も経っているんだ。心配なんてしない」
紅羽:「そう…私は心配よ」
寿楽:「そうなのか?」
紅羽:「だって、紫桜様は私と違って『視える』だけですもの」
寿楽:「お前が特別すぎるだけだよ。普通の姫は、術まで扱えないと思う」
紅羽:「まぁ、酷い言い方…寿楽は、私が術を使えない方がよかったの?」
寿楽:「そんなことはないけどな…自分の身を守れるというのは、大切だと思う」
紅羽:「なら…」
寿楽:「だけど、俺の方が力が弱いから、お前を危険に晒してしまうこともある。
寿楽: それが辛いだけだ」
紅羽:「私は、あなたとここに来たことに、後悔していないわ」
寿楽:「紅羽…」
紅羽:「屋敷に居た時は、皆が気を遣っていて、息苦しさすら感じていたの。
紅羽: だから、これでよかったのよ」
寿楽:「…そうだな」
紅羽:「ねぇ、寿楽」
寿楽:「ん?」
紅羽:「私は、あなたが好きよ」
寿楽:「今更だな…俺の方がお前を好きだ」
紅羽:「お屋敷に居たら、きっと、こんな風に言うことは出来なかったでしょうね」
寿楽:「そうだな」
紅羽:この時代、想いを伝えることは叶わないと思っていた。
紅羽:生まれた時から、この力に悩まされていたけれど
紅羽:寿楽に出会って…千景に出会って、紫桜様に出会って
紅羽:私の運命は最初から、この人たちと出会うためだったのだと思った。
- 現代 -
寿里弥:今日は久しぶりに近所の神社に来ている。
寿里弥:前に来たときは、静かだったはずの神社は
寿里弥:妖たちと一人の女性によって、静けさがなくなっていた。
紅葉:「へぇ、そんなことがあったの」
紅葉:「やっぱり、あなた達と話していると楽しいわね」
寿里弥:「あの」
紅葉:「え?あ…」
寿里弥:「さすがに、声はもう少し小さくした方がいいと思いますよ」
紅葉:「あ、すみません…うるさくて」
寿里弥:「あ、いや。俺はそいつら視えるからいいんですけど。普通の人には視えないから」
紅葉:「…あなた、視えるの?」
寿里弥:「え?えぇ」
紅葉:「そっか」
寿里弥:「あの、何か?」
紅葉:「あぁ、ごめんなさい。星読みが当たったと思って」
寿里弥:「星読み…もしかして、陰陽師の家系だったりしますか?」
紅葉:「知っているってことは、あなたもですよね?」
寿里弥:「俺は先祖がそうだっただけで、今は一般家庭の家ですよ」
紅葉:「今は?」
寿里弥:「祖父の代までは、そういうのもしていたみたいですけどね」
紅葉:「そう、なんですね」
景太:「姉さん!」
紅葉:「あ、景太」
景太:「もう、探したよ。みんな、心配してる」
紅葉:「ごめんなさい。この子たちとお話したくて」
景太:「姉さん、人前で(それはさすがに)」
紅葉:「(さえぎって)大丈夫よ。この人、視えるそうだから」
景太:「あ、そうなんだ」
寿里弥:「えっと…」
紅葉:「すみません。私は土御門紅葉(つちみかど もみじ)。彼は弟の景太です」
景太:「土御門景太(つちみかど けいた)です」
寿里弥:「芦屋寿里弥(あしや じゅりや)と言います」
紅葉:「・・・」
景太:「姉さん?」
紅葉:「ごめんなさい。何でもないわ。帰りましょう」
景太:「あ、うん」
紅葉:「じゃあ、寿里弥さん。また、どこかで」
寿里弥:「あ、はい」
寿里弥:これが、紅葉と景太との出会いだった。
寿里弥:あれから数年が経って、
寿里弥:俺は紅葉と、景太は俺の幼馴染の藤宮美桜(ふじみや みお)と付き合った。
寿里弥:後から聞いた話だと、紅葉と景太は、前世の記憶を少し持っていて
寿里弥:俺たちを探していたんだとか。
寿里弥:俺と美桜には前世の記憶がないから、未だに信じられないところもあるけど。
紅葉:寿里弥との出会いは、まさに運命と言えるものだった。
紅葉:星読みで『懐かしい人に会える』というのは兆しが見えていたけれど
紅葉:昔の友人にでも会えるのか、と思っていたから。
紅葉:例え、彼に昔の思い出がなくても、構わない。
紅葉:私は、あなたと再会出来たのだから。
【場面転換】
美桜:「景太?どうしたの?」
景太:「ごめん。今、行く」
美桜:「何かあった?」
景太:「いや…姉さんと仲のいい妖から、言伝(ことづて)をね」
美桜:「紅葉さん、相変わらず妖にも相談されているんだね」
景太:「うん。いつも屋敷の中は大騒ぎだよ」
美桜:「賑やかでいいんじゃない?」
景太:「まぁね。ねぇ、美桜」
美桜:「ん?」
景太:「美桜は、運命って信じる?」
美桜:「急にどうしたの?」
景太:「…前に話したことがあるでしょ?僕には前世の記憶が少しだけあるって」
美桜:「うん。だから、私たちは出会えたって言ってたね」
景太:「うん…美桜はどう思ってるのかな、と思って」
美桜:「う~ん。前世とかは分からないけど、景太と出会ったのは運命だと思う」
景太:「・・・」
美桜:「初めて会った時に、初めてじゃないっていうのは感じたし。
美桜: あ、でも、だから好きになったわけじゃないからね」
景太:「美桜…」
美桜:「きっと、前世でも景太のことを好きだったと思うけど
美桜: 私は景太だから、好きになったんだよ」
景太:「うん…僕も、美桜だから好きになった。ごめん、変なこと聞いて」
美桜:「ううん。嬉しいよ」
景太:「え?」
美桜:「だって、ちゃんと想い合うって大切じゃない」
景太:「そうだね」
美桜:景太と出会ったのは、幼馴染からの紹介だった。
美桜:でも、話しているうちに、懐かしさを感じるようになった。
美桜:私には前世の記憶はないけど、それでも感じることは出来るから。
美桜:きっと、私はあなたに会うことを目標にしていたんだと思う。
美桜:未来を信じて、過去の私は想いを託したのだと。
景太:美桜と初めて会った時の衝撃は、今でも忘れられない。
景太:懐かしさと喜びで、言葉に上手くできなかった。
景太:それ以上に、美桜と話している時、すごく楽しかった。
景太:だからこそ、僕は美桜に告白をしたんだ。
景太:これは運命。未来へ繋いだ想いだと思うから。
寿里弥:必ず守る。きっと、俺はそのために生まれたんだ。
紅葉:これからもずっと、あなたのことを想っている。
美桜:きっと、私たちが出会うことは、ずっと前から決まっている。
景太:君のことをこれから先もずっと、大切に想う。
(終わり)
Special Thanks:JUN様、紅山楓様、くろろこ様
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2023.08.21 14:03