優しい鬼と優しい子供
≪詳細≫
こちらは節分をテーマに書いたお話です。
人間と関わりたくないと思っていた鬼と鬼に会って幸せになりたい子供のお話。
およそ20分くらいとなります。
※どちらの役も性別不問
≪あらすじ≫
人間は鬼にとっていいものではないと思っていた。
「鬼さん、優しいね」
≪人物設定≫
鬼…山に住む鬼(姿や年齢などはご想像にお任せします)
(鬼)となっているところはモノローグです。
子供…節分の日に鬼に会いたい子。(幼少)
後半、高校生~社会人くらいになります。(こちらも年齢設定はお任せします)
(鬼):私はこの山に住んでから、人間に出会うことも見ることもなく生きてきた。
(鬼):人間は、私たち鬼を見ると、脅え、逃げ惑い…
(鬼):仕舞いには山ごと焼き払うこともあると、はるか昔に聞いていたから、避けてきた。
(鬼):しかし、今、目の前に人間の子供がいる。
(鬼):しかも、私の手を掴んでいる。
鬼:「なんだ、子供」
子供:「あなたは誰?」
鬼:「私は鬼だ」
子供:「鬼?人じゃないの?」
鬼:「あぁ、鬼さ。お前たち人間が忌み(いみ)嫌う鬼だ」
子供:「??」
鬼:「お前は私を見ても怖がらないんだな」
子供:「怖くないよ?あなたは優しい感じがする」
鬼:「優しい?この私が?」
子供:「うん!あなたは優しい目をしているよ。どうして、怖がる必要があるの?」
鬼:「どうして?」
子供:「貴方に何かされた訳じゃないのに、怖がる必要なんてないでしょ?」
鬼:「お前は…変わった人間だな」
子供:「そう?僕(私)の村では、鬼は守り神だって言われているから」
鬼:「守り…神…?」
子供:「そうだよ!村を色んなものから守ってくれるんだって」
子供:「おばあちゃんも、お母さんも、みんな言ってる!」
鬼:「そうなのか…」
(鬼):聞いていた人間の話とは、まるで違う。
(鬼):鬼が人間の守り神というのは、どういうことなのか…
鬼:「なぁ、子供。お前の村では、守り神。ということは、かつて何かあったのだろう?」
子供:「僕(私)が聞いた話はね。鬼が山越えしてくる悪い奴らを追い払ってくれるって」
子供:「だから、この村はずっと安全で、住みよい村なんだって」
鬼:「山越えしてくる者?あぁ、確かに同じ妖怪はたくさん出会うし」
鬼:「私たちの縄張りに入ってくるから、退治することもあるが…」
子供:「昔、鬼がこの山に住み着くまでは、すごくたくさんの妖怪にたくさん悪さをされたんだって」
子供:「でも、鬼が住み着いて、妖怪が麓(ふもと)の村に来なくなったんだって」
鬼:「…私は、人間は鬼に怯え、逃げ惑い、山に火を放って追い払うと聞いた」
子供:「僕(私)たちはそんなことしないよ!神様にそんなことしたら、天罰が下るもん」
鬼:「鬼は妖怪。神ではない」
子供:「僕(私)たちにとっては神様なんだってば」
鬼:「そうか…時に子供、そろそろ家に帰らないのか?」
子供:「えっ?」
鬼:「そろそろ日が暮れる。山の中では、人間には不利なことも多いだろう。早く帰るんだ」
子供:「もっと、鬼さんとお話したかったのになぁ」
鬼:「お前は、本当に不思議なことを言うな」
鬼:「鬼と仲良くなど、なっても良いことなどないというのに」
子供:「そんなことないよ!鬼さんは優しいもん。僕(私)のことを心配してくれているもん」
鬼:「別に心配などしていない。ただ、山の中で人間が死ぬのは、気持ちが悪いだけだ」
子供:「そうなの?」
鬼:「数百年は生きる鬼にとって、人間の死は瞬き程度だが」
鬼:「自分の縄張りでそれが起きるのはいい気がしない」
子供:「やっぱり、優しい。節分の時に出会うと縁起がいいって聞いたから、会えてよかった」
鬼:「…まさか、鬼を探して、山に入ったのか?」
子供:「うん!節分に、村の守り神に会えたらね」
子供:「縁起が良くて、これからも幸せに暮らせるんだって」
鬼:「節分というのはなんだ」
子供:「季節の変わり目で」
子供:「明日から春だよ~、新しい一年の始まりだよ~っていうのをお祝いする日!」
鬼:「その日に鬼に出会えるのが、縁起がいいのか?」
子供:「そうだよ!家に入られたら、幸せを持っていかれてしまうから、この日だけは、家に入られないようにしないといけないんだって」
鬼:「それは、食い違いがあると思う。出会えば幸せだが、家に入られるのは不幸せとは」
子供:「難しいことは分かんないけど…でも、僕(私)は幸せになりたいから、会いに来たよ」
鬼:「なんなんだ、それは…(呆れ)」
子供:「だからぁ、僕(私)が会えてるってことは、家には行けないでしょ?」
鬼:「ふっ(笑)なるほど」
子供:「僕(私)は会えて幸せ。鬼さんは家に行かないから、家族も幸せ」
鬼:「子供…お前は優しいのだな」
子供:「そうかな?」
鬼:「あぁ。優しいとも。すごく家族思いだ」
子供:「えへへっ(照れ)」
鬼:「…話過ぎたな。麓(ふもと)まで送ろう」
子供:「いいの?」
鬼:「あぁ。ここまで暗くなれば、人間には、遠めに鬼と人間の区別がつかないだろうしな」
子供:「やっぱり、優しいね。鬼さん」
(鬼):この後、人間の子供を山の麓の少し明るいところまで送った。
(鬼):そして、この年から、この子供は毎年、私の所に来るようになった。
(鬼):気づけば、年端もいかぬ子供から、立派な大人へと歩み始めていた。
鬼:「また来たのか…よくもまぁ、飽きずに毎年」
子供(成人):「もう習慣づいているんだよ」
鬼:「もういい年だろうに」
子供(成人):「うるさいなぁ。いいじゃん、鬼さんに会いたくて来てるんだから」
鬼:「私は人間のように老いたりしない。何が楽しいんだ?」
子供(成人):「話すのが楽しいんだよ、昔から」
鬼:「本当にお前は変わっている…いや、変わらないな」
子供(成人):「お互い様だよ」
(鬼):子供はそう言って、笑い、私も一緒に笑った。
子供(成人):「…鬼さん」
鬼:「なんだい?」
子供(成人):「鬼さんは、俺(私)が来るのは迷惑?」
鬼:「ふっ(笑)何を今更…私が迷惑そうにしていたことがあるか?」
子供(成人):「(笑い)ない」
鬼:「なら、何故そんなことを聞く?」
子供(成人):「ふと、思っただけ」
鬼:「今更、私に気を使ってもいいことはないぞ?」
子供(成人):「そうかもしれないけど…よく言うじゃん。『親しき中にも礼儀あり』って」
鬼:「それは人間同士だろう?妖怪である私には関係ない」
子供(成人):「そんなことないよ」
鬼:「あぁ、お前はそういう人間だった」
子供(成人):「なんだよ、それ」
鬼:「気を悪くしたなら謝るが」
子供(成人):「そんなことはないよ…鬼さんにしては珍しいな」
鬼:「そうか?…お前が大人になって、少し寂しいのかもしれないな」
子供(成人):「人間の成長は瞬き程度って、昔言ってなかった?」
鬼:「あぁ。それは今でも思っている。だから、人間と仲良くなるのは辛いのだなと思っているよ」
子供(成人):「そうなの?」
鬼:「人間の子は、必ず先に死んでしまうからな」
子供(成人):「そうだね…でも、俺(私)は死ぬまで、毎年来るよ」
子供(成人):「死んだら、幽霊になって会いに来るよ」
鬼:「そうかい」
(鬼):この子は本当に優しいな…この子なら、本当に会いに来そうだ。
(鬼):節分という、年に一度の奇跡を、まずはこの子が生きている間に、
(鬼):あとどれくらい一緒に過ごせるか分からないが楽しむとしよう。
(鬼):人間の成長はあっという間だから。
(終わり)
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